くり~み~あじ~る

Notes Toward a Supreme Fiction

ながるるるるるこメモ 漂泊するアイデンティティ

1.宇宙人たち

 るるるこは最初、サールスの召使として登場する。サールスの召使をしていたるるるこはサールス文化に染まっている部分が多い。例えば「一人前の召使になってネズミを食べる」ことを目標にする。るるるこが王になった際には「しゃー♡香り高きわがサールスの文化をあまねく宇宙のすみずみにまで行き渡らせるのだ」と言う。サールスの暦で年を把握していることなどである。

 司書のもとで働くときも司書≒ネズミを味わっているのもその名残と考えられる(「司書先生ネズミの仲間ですか」)。

このようにサールス文化に染まりながらもるるるこは自身がサールスではないことをしっかりと把握している。これは「サールスすてき」と言ったことから逆説的に自身はサールスではないと認識していると考えることができる。

またサールスは猫を人類世界の産物として扱っている部分がある。「とかげの神は人類世界を征服したときの褒美にと猫を用意してくださったのだ」るるるこにミミミを外さないよう言ったことからミミミを付け続けることもサールス文化に染まった一端として読めるかもしれない。

 司書は集まっていないと知能が下がる群体生物である。これが代表的だがサールスも謎の幽霊種族も集団としての思想を発揮させている。サールス間で仲間割れを起こすのは例外的かもしれないが、るるるこへの待遇は同じものである。

 幽霊種族は名無しである。外見はるるるこに似ているがるるるこはそれに気が付かない。取った行動と言えば王を迎えて臣下であろうとすることだ。これもるるること同じである。

 地球帝国宇宙軍の犬。るるるこの地球(神聖帝国)は国連未加盟であり、社会的にも疎外されていることが読み取れる。その結果地球帝国と混同されることとなる。コピー地球は竹本泉作品でお決まりの設定だが、集団として立ち昇る宇宙人たちを見ると、集団としての=非個としての地球のイメージが呼応する。

 その後海賊になるがこれはアウトロー=無身分状態になったと言ってもいい。しかしそこで砲撃の能力によって仕事=役割をるるるこは担保する。

 偽地球の光る先生が物語を語らせる。光る先生も「我々」であって集団として現れる。

 以上のことから集団としての宇宙人に対して個としてのるるるこの立ち位置が揺らぐ構造が維持されていることがわかる。

2.るるるこ、ミミミ、ふーナ

 初めに気象局につながらないことをミミミが告げる。ここでも切断されてしまったるるるこのイメージが立ち上がる。ミミミはある程度るるるこの行動をコントロールしている。「どうしてこわれた船が逃げていたのか聞いてみて」「今月の目標を決めよう」またミミミはるるるこの言動を記録している。その一方でるるるこは忘れっぽい。これは司書からも観察して記録することを要求されることからもわかる。

 るるるこは謎の幽霊種族に王にされるがミミミを外すと偽耳として王失格になる。その後ふーナが王様でペット、るるるこが従者で飼い主になる。猫はサールスにとって人類世界の象徴であり、ミミミを付けたるるるこを猫のようで好ましいとしたが、幽霊種族もこの価値観に基づいて行動しているように見える。

 るるるこは孤独の中で、わたしがわたしの召使になってわたしがわたしに命令することを思いつく。そのるるるこによるるるるこへの命令もミミミによって修正されている。

 ペットである猫と言葉の存在であるミミミの間でるるるこは揺れ動いているように見える。

3.時間と語り

 本作は時系列がバラバラである。直線的な時間からるるるこのアイデンティティは立ち昇らない。るるるこの語りも時系列の混乱がよく見られる。過去の省略や嘘の未来が語りの中に入り混じることになる。

 サールス文学は途中は波瀾万丈だがオチが同じ。るるるこの語りは司書から「波瀾万丈」と称されている。

 るるるこは光る先生に物語を提供させられる。これは仕事ではない。最後はサールスが宇宙征服するオチを作るが意外な結末と評価される。この評価の差は何だろうか。また、地球帰還後のるるるこの未来は意外ではない、と地の分で評される。